「紫外線防護」の観点から
宇宙ミッションの遂行を支える!
〈前編〉

このコーナーでは、紫外線や赤外線、大気汚染などの環境ストレスに立ち向かうために、各界で挑戦をつづけるプロフェッショナルや企業、いわばオールジャパンの挑戦をご紹介します。

紫外線に立ち向かうための研究は、私たち人間の肌や健康という観点だけではありません。今回ご登場いただくのは国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙空間における紫外線防護の研究を行っている行松和輝さん。無限の可能性やロマンに満ちた宇宙ですが、その一方で宇宙は私たちが暮らす地球からは想像もつかないほど過酷な環境です。そうした環境から人工衛星などを守るための取り組みについて、行松さんにお話を伺いしました。

放射線、200℃以上もの温度差…
宇宙機をとりまく過酷な環境。

――宇宙は、私たちが暮らす地球とはどのような点が違うのですか。

ロケットや人工衛星、国際宇宙ステーションなどをまとめて「宇宙機」と言いますが、宇宙機の電子部品の故障や材料の劣化を引き起こす“リスク”という観点から見ると、地上と宇宙との違いは大きく4つあります。それが「放射線」「紫外線」「温度」「真空環境」です。

例えば、放射線については、地球は大気層と地磁気にシェルターのように守られているため、地上には放射線はほとんど届きませんが、宇宙には高いエネルギーの放射線が絶え間なく降り注いでいます。また、宇宙機の表面温度については、太陽の光が当たっているときは100℃以上にもなり、逆に当たっていないときはマイナス100℃以下にもなるのです。

エンデバー号から撮影された国際宇宙ステーション(ISS)
(C)JAXA/NASA

――紫外線も、地上と宇宙では違うのですね。

はい。紫外線の波長域は200~400㎚で、そのうち地上に届くのは300㎚以上の紫外線です。これは、大気によって弱められているためです。しかし、水や酸素がない宇宙空間では300㎚以下の紫外線も存在しますし、紫外線の放射エネルギーも地上に届く紫外線と比較して強くなります。

紫外線による「日焼け」が
宇宙機の不具合につながることも。

――宇宙空間における紫外線は、宇宙機にどのような影響を与えるのですか。

宇宙機と聞いてみなさんがまず思い浮かべるのは、金色のもので人工衛星を包んでいる映像だと思います。あの金色をしたものは「サーマルブランケット」と言って、外部から人工衛星に入ってくる熱を遮断するものですが、人工衛星には白色に塗られている部分もあるんです。

JAXAで研究開発員として活躍する行松和輝さん

白色は光を反射し、逆に黒色は光を吸収しますよね。それと同じ考えで、人工衛星の一部分を白色に塗ることで太陽光を反射させ、そこから人工衛星全体の熱を逃がしているんです。地上と違って空気がない宇宙では熱が逃げにくいため、熱を逃がす仕組みはとても重要なのです。

しかし、下の写真を見ていただくと分かるように、白色の部分に紫外線が当たると、ちょうど人間の皮膚が日焼けするのと同じように変色していきます。これを「黄変」と言います。黄変が進んで黒色になると太陽光をどんどん吸収するようになり、熱の吸収と放出のバランスが崩れ宇宙機の不具合の原因にもなってしまうわけです。

紫外線照射の評価例。いちばん上がもともとの素材の色で、紫外線の照射量が増えるにしたがって黄変していく
出典:Junichiro Ishizawa and Kazuyuki Mori, “Space Environment Effects on Cross-Linked ETFE Polymer,” Proc. 11th International Symposium on Materials in a Space Environment, CD-ROM, 2009.
JAXAウェブサイトより引用
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員
行松和輝さん
2017年、大阪大学大学院工学研究科博士前期課程(環境・エネルギー工学専攻)修了。同年、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構に入社。現在に至る。
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